7月23日、今日から大暑(たいしょ)が始まりました。
一年で最も暑さが厳しくなる時期。けれど不思議なことに、この大暑は「夏の最後の節気」でもあります。次にやってくるのは、立秋。暑さの頂点に立った瞬間から、暦はもう秋へと歩き出しているのです。
日本には、一年を24に分けて季節の移ろいを表す「二十四節気」という暦のしくみがあります。40代になってから、私はこの暦のリズムに、体がとても素直に反応することに気づくようになりました。「なんとなく調子が出ない」と思っていた日が、実は季節の変わり目だったり。「今日は空気が違う」と感じた朝が、節気の始まりだったり。
この記事は、夏の6つの節気 ― 立夏・小満・芒種・夏至・小暑・大暑を、一冊の手帖のようにまとめたものです。それぞれの節気の意味、自然界の細やかな変化を伝える七十二候、旬の食べもの、そして40代の体と暮らしを整えるための小さな習慣を添えました。
今の節気から読んでいただいても、5月の入り口から辿っていただいても大丈夫。夏のあいだ、季節が変わるたびに開いていただける一冊になればうれしいです。
夏の二十四節気 早見表
※日付は2026年のものです。年によって1〜2日前後します。
| 節気 | 2026年の期間 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 立夏(りっか) | 5月5日〜5月20日 | 暦の上での、夏のはじまり |
| 小満(しょうまん) | 5月21日〜6月5日 | 命が少しずつ満ちていく |
| 芒種(ぼうしゅ) | 6月6日〜6月20日 | 雨の中で、静かに根を張る |
| 夏至(げし) | 6月21日〜7月6日 | 光が極まる、折り返し点 |
| 小暑(しょうしょ) | 7月7日〜7月22日 | 夏本番への、入り口 |
| 大暑(たいしょ) | 7月23日〜8月6日 | 暑さの頂点、そして秋の入り口(今ここ) |
二十四節気とは ― 季節を測る、日本のものさし
二十四節気とは、一年を24等分して、季節の移り変わりを表した暦のしくみです。太陽の動きをもとにしているため、実際の季節の変化と丁寧に重なるのが特徴です。
なかでも、立春・立夏・立秋・立冬の4つは「四立(しりゅう)」と呼ばれ、それぞれの季節の入り口を告げる特別な節気です。そして、その前日はすべて「節分」にあたります。現在は立春前の節分(豆まき)が有名ですが、本来、節分は年に4回あるのです。
さらに二十四節気を3つずつに分けたものが、「七十二候(しちじゅうにこう)」。およそ5日ごとに移ろう自然界の変化を、短い言葉で写し取った暦です。「蛙が鳴きはじめる」「蛍が飛びはじめる」「大雨が時々降る」――そんな細やかな観察が、千年以上も前から言葉として残されてきました。
季節を「春夏秋冬」の4つではなく、24、さらに72に分けて感じ取る。その細やかさこそが、日本の暮らしの豊かさなのだと思います。
立夏(りっか)|5月5日頃〜 ― 暦の上での、夏のはじまり
ゴールデンウィークが終わり、街の空気がふっと変わる頃。風がやわらかくなって、緑がいっせいに眩しさを増して、「あ、夏が来た」と感じる瞬間があります。その感覚はきっと、暦が知らせてくれているサインです。
立夏は二十四節気の第7番目。「夏の立つ日」、つまり暦の上での夏のはじまりを意味します。本格的な暑さが来る前の、爽やかで心地よい初夏 ― 立夏はそんな季節の入り口に、静かに佇んでいます。
七十二候
- 蛙始鳴(かわずはじめてなく)|田んぼや水辺からカエルの声が聞こえ始める頃
- 蚯蚓出(みみずいづる)|ミミズが土から出て、土を耕し始める頃。大地が夏へ動き出すサインです
- 竹笋生(たけのこしょうず)|タケノコが地面を突き破って伸びる頃
旬の食べもの
体の熱をやさしく冷ましながら、気力を補ってくれる食材が揃います。アスパラガスは余分な熱や水分を外へ促してくれるとされ、初夏の体の「大掃除」に。「目には青葉、山ほととぎす、初鰹」と詠まれる初鰹は、薬膳では血を補い気力を高める食材とされています。あさりはミネラルを補いながら、春の疲れが残る体を整えてくれます。
そして、忘れたくないのが八十八夜の新茶。5月2日頃の八十八夜を過ぎると新茶の季節が始まります。「この日に摘んだお茶を飲むと長生きする」という言い伝えが残るほど縁起のよい一番茶です。少し温度を下げたお湯でゆっくり蒸らして淹れた一杯が、心と体をやさしく整えてくれます。
暮らしの整え習慣
立夏の朝は、一年で最も清々しい空気のひとつです。窓を開けて、若葉の香りを運ぶ風を胸いっぱいに吸い込む ― たったそれだけで、眠っていた体が目覚めていく感覚があります。そして立夏を過ぎると、紫外線が急に強くなります。夏本番になって慌てないよう、UVケアを「習慣として始める」タイミングとして意識してみてください。
季節を表す言葉
「薫風(くんぷう)」――若葉の香りを運ぶ、爽やかな初夏の風。「夏めく・夏浅し」――夏の気配を感じ始めた、まだ涼しさの残るこの時期ならではの言葉です。
小満(しょうまん)|5月21日頃〜 ― 命が少しずつ満ちていく
窓を開けると草木の青々とした香りが漂い、風がほんの少し湿り気を帯びてくる頃。「ああ、もうすぐ梅雨だな」とふと感じる季節の変わり目です。
小満は、天地が生命力に満ちあふれ、草木がぐんぐん育つ頃を指します。麦が収穫期を迎え、農家の方が「ほっとして少し満足する」様子を表しているとも言われています。
この節気の名前を、私はとても気に入っています。「大きな満足」でも「完全な満足」でもなく、「少しずつ満ちていく」。大きな成果を求めるのではなく、小さな成長や変化をやさしく受け取る ― そんな日本らしい感性が込められた言葉です。
七十二候
- 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)|蚕が桑の葉を盛んに食べ始める頃。小さな命が黙々と食べ、育ち、やがて美しい絹を生み出していきます
- 紅花栄(べにばなさかう)|紅花が盛んに咲く頃
- 麦秋至(むぎのときいたる)|麦が熟して収穫期を迎える頃
旬の食べもの
そら豆は薬膳で「脾(ひ)」を養い、体のエネルギーを補う食材とされ、消化機能が落ちやすいこの時期にぴったり。きゅうりは水分たっぷりで、熱がこもりやすい体に寄り添ってくれます。そして5月下旬から出回り始める青梅は、梅シロップや梅酒を仕込む合図。麦茶をそろそろ用意し始めるのも、この頃です。
暮らしの整え習慣
かつて6月1日が衣替えの目安とされていたように、小満は冬物をしまい、夏物を出す時期です。衣替えは「こなす作業」ではなく、「今の自分に合うものを選ぶ時間」として向き合うと、暮らしが整っていく感覚があります。使わなくなったものを手放し、体に気持ちよくまとうものだけを残す ― そのひとつひとつの選択が、40代の暮らしをやさしく整えてくれます。
季節を表す言葉
「薄暑(はくしょ)」――わずかに汗ばむ程度の、心地よい暑さ。「麦秋(ばくしゅう)」――麦が熟す初夏を「秋」と呼ぶ、日本語の豊かさが光る言葉です。
芒種(ぼうしゅ)|6月6日頃〜 ― 雨の中で、静かに根を張る
6月に入ると、空気が変わります。雨が続き、湿気が肌にまとわりつくような日が増えてくる。「なんとなく体が重い」「頭がぼんやりする」――そんな感覚を覚える方も多いのではないでしょうか。
芒種とは、「芒(のぎ)」――稲や麦の穂先にある細い針のような部分――を持つ穀物の種を蒔く時期を意味します。日本では、ちょうど梅雨入りと重なる節気です。
小満で「少しずつ満ちていく」感覚をお伝えしましたが、芒種はその先 ― 満ちた命が、次の実りに向けて動き出す時期。雨に打たれながらも根を張り、静かに育っていく植物の姿が、この節気の本質を表しています。
七十二候
- 螳螂生(かまきりしょうず)|カマキリが卵から生まれ出る頃
- 腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)|蛍が光を放ちながら飛び始める頃。湿った草むらから光が現れる、梅雨の夜の幻想的な風景です
- 梅子黄(うめのみきばむ)|梅の実が黄色く熟していく頃。梅仕事の最盛期です
旬の食べもの
みょうがの清々しい香りは、頭をすっきりさせ、消化を助けてくれます。新生姜は辛さがやわらかく、血行を促して体を温めるとされ、梅雨冷えの日に一品添えたい食材。そして梅の実が熟すこの時期は、梅仕事の最盛期です。とうもろこしや枝豆などの豆類は、体内の「除湿」を助けるとされています。
暮らしの整え習慣
梅を洗い、へたを取り、瓶に詰める ― その手仕事の時間が、忙しい日常に「静かな集中の時間」をもたらしてくれます。今年はまだという方も、小さな瓶でひとつだけ試してみてください。もうひとつ、意外と見落としがちなのが寝室の湿気です。「よく眠れているはずなのに疲れが取れない」という感覚の裏に、寝具の湿気が関係していることがあります。
季節を表す言葉
「五月雨(さみだれ)」――旧暦5月に降り続く梅雨の雨。うっとおしいと思っていた雨も、「五月雨」と呼ぶと少し詩的に聞こえます。「入梅(にゅうばい)」――梅の実が熟す頃に雨が多くなることから、「梅雨」の名が生まれたとも言われています。
夏至(げし)|6月21日頃〜 ― 光が極まる、折り返し点
夕方になっても、まだ空が明るい。「もうこんな時間なのに」――そんな感覚を覚える頃が、夏至です。
一年で最も昼が長く、夜が短い日。太陽の力が最も高まり、自然界のエネルギーが頂点に達する特別な節気です。同時に、日本ではまだ梅雨の真っただ中。明るさと湿りけが同居する、不思議な季節でもあります。
興味深いのは、夏至を境に、昼は少しずつ短くなっていくということ。「陽」が極まった瞬間から、静かに「陰」へと向かい始める ― 最も明るい日が、同時に次の季節への入り口でもある。そんな自然の巡りの妙が、この節気には込められています。
七十二候
- 乃東枯(なつかれくさかるる)|夏枯草(うつぼぐさ)が枯れていく頃。多くの草木が生い茂る季節に、ひとり枯れゆくその姿が、「陽が極まり陰に転じる」性質を象徴しています
- 菖蒲華(あやめはなさく)|あやめの花が咲く頃
- 半夏生(はんげしょうず)|半夏(からすびしゃく)が生える頃。田植えを終える目安とされてきました
旬の食べもの
関西地方には、夏至から半夏生にかけてたこを食べる習慣があります。稲の根がたこの足のようにしっかり張るように、という願いが込められた風習です。たこに含まれるタウリンは疲労回復を助けるとされ、夏の体にうれしい食材。きゅうり・なす・トマトなどの夏野菜が本格的な旬を迎え、芒種の頃に仕込んだ梅シロップや梅干しが、そろそろ楽しめる時期です。
暮らしの整え習慣
日が長くなると、つい活動的になりすぎてしまいます。でも夏至は「陽が極まる」時期。昂りやすいこの季節こそ、意識して「静」の時間をつくることが大切です。夜は少し早めに照明を落とし、寝る前にスマホを手放す ― 明るさに引っ張られすぎない工夫が、夏の眠りを守ってくれます。
そして6月30日は、一年のちょうど半分にあたる日。多くの神社では夏越の祓(なごしのはらえ)という、半年分の穢れを祓う神事が行われます。茅の輪をくぐり、「水無月」という和菓子をいただく習わしも。「ここまでの半年、おつかれさま」と自分をねぎらう ― そんな区切りの時間が、暮らしにやさしいリズムを生んでくれます。
季節を表す言葉
「夏至南風(はえ)」――夏至の頃に吹く南風。梅雨明けを運んでくる風として、漁師や農家に親しまれてきました。
小暑(しょうしょ)|7月7日頃〜 ― 夏本番への、入り口
蝉の声が聞こえ始め、空の色が夏らしくなる。「いよいよ本格的な夏だな」――そんな感覚を覚える頃です。
小暑は「暑さが小さい」と書くように、暑さが徐々に強まり、夏本番へと向かっていく時期。梅雨の終わりと夏の始まりが重なる、季節の入れ替わりの節気です。
七十二候
- 温風至(あつかぜいたる)|温かい風が吹いてくる頃。梅雨明けの頃に吹く、夏の到来を告げる風です
- 蓮始開(はすはじめてひらく)|蓮の花が開き始める頃。早朝にひらき、昼には閉じるその姿が、夏の一日のはかなさと美しさを教えてくれます
- 鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)|鷹の若鳥が飛び方を覚える頃
旬の食べもの
本格的な旬を迎える夏野菜(なす・きゅうり・トマト・ゴーヤ)が、体の余分な熱を冷ましてくれます。7月7日の七夕にはそうめんを食べる風習があり、食欲がないときもつるりと食べられる夏の味方に。桃やすいかも旬を迎え、すいかは体の熱を冷まして水分を補ってくれる定番です。
暮らしの整え習慣
暑さが本格化する小暑は、汗をたくさんかく季節。のどが渇く前に、こまめに水分を摂ることが体調管理の基本です。冷たいものを一気に飲むと胃腸に負担がかかるので、常温の水や麦茶を少しずつ。そして寝苦しい夜が増える季節でもあります。寝室の温度を心地よく保ち、通気性のよい寝具を選ぶこと。就寝前にぬるめのお風呂に入ると、体温がゆるやかに下がり、寝つきがよくなります。
季節を表す言葉
「涼風(すずかぜ)」――暑さのなかにふと感じる、涼やかな風。「蝉時雨(せみしぐれ)」――たくさんの蝉が一斉に鳴く声を、時雨の音にたとえた美しい言葉です。
なお、小暑から立秋までの間は「暑中見舞い」を出す時期とされています。デジタルの時代だからこそ、季節のあいさつを送る習慣に、あたたかさを感じます。
大暑(たいしょ)|7月23日頃〜 ― 暑さの頂点、そして秋の入り口
そして今、私たちは大暑のなかにいます。
大暑は、その名の通り「大いに暑い」時期。一年でもっとも気温が高くなり、暑さが極まる節気です。2026年の大暑は7月23日から始まり、次の節気「立秋」の8月7日頃まで続きます。
ここで少し立ち止まりたいのは、大暑が「夏の最後の節気」だということ。暑さの頂点にいながら、暦の上ではもう秋への入り口に立っている ― 夏至で感じた「極まった瞬間から、次へ転じる」というあの感覚が、ここでもう一度巡ってきます。
いちばん暑い日が、秋のはじまりでもある。厳しさの真ん中に、次の季節の気配がひそんでいる。そう思うと、この暑さも少しだけ、違って見えてきませんか。
七十二候
- 桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)|7月23日頃。桐の木が実を結び始める頃。初夏に薄紫の花を咲かせた桐が、静かに次の準備を進めています
- 土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)|7月28日頃。土が湿って、蒸し暑くなる頃。日本の夏特有の、あのまとわりつくような暑さを言い当てた候です
- 大雨時行(たいうときどきにふる)|8月2日頃。夕立など、時として大雨が降る頃。夏の午後、空が急に暗くなり、地面を叩くような雨が降って、去ったあとに涼しい風が残る ― そんな風景が目に浮かびます
40代の体に「大暑」が教えてくれること
薬膳の考え方では、夏は引き続き「心(しん)」の季節とされます。心は血液を巡らせる働きと精神の安定を司るとされ、暑さで特に負担がかかりやすい臓です。
そして大暑にはもうひとつ、大切な視点があります。この時期は「夏の土用」と重なっているのです。土用は立秋前の約18日間(2026年は7月20日〜8月6日)を指し、五行の考え方では「土」――つまり「脾(ひ)」=胃腸と深く結びついた期間とされています。
つまり大暑は、「心」と「脾」の両方をいたわりたい時期。暑さで消耗する心と、冷たいものが増えて弱りやすい胃腸。この2つが同時に負担を抱えるからこそ、一年でいちばん体力を使う節気なのかもしれません。
- 食欲が落ちて、そうめんなど簡単なもので済ませてしまう
- 冷たい飲み物やアイスが増えて、胃腸が重だるい
- 冷房の効いた室内と、猛暑の外との温度差で、体がぐったりする
- 寝苦しさが続いて、疲れが翌日に持ち越される
「夏バテ」という言葉でひとくくりにされがちなこれらの不調は、心と脾がそれぞれ助けを求めているサインです。40代の体は、暑さに対しても以前より正直に反応します。「気合いで乗り切る」より、「消耗を減らす」ほうが、この時期にはずっと理にかなっています。
大暑の旬の食べもの
うなぎ|土用の丑の日は7月26日(2026年)
2026年の夏の土用の丑の日は、7月26日(日)です。江戸時代、売り上げに悩むうなぎ屋が学者に相談し、「本日、土用の丑の日」という張り紙を出したところ大繁盛した ― という有名な逸話が、この風習の由来のひとつとして知られています。ビタミンが豊富なうなぎは、暑さで消耗した体を元気づけてくれる夏のごちそうです。
「う」のつく食べもの
丑の日には「う」のつくものを食べると体によい、という言い伝えがあります。梅干し(クエン酸で疲労回復を助けるとされます)、うどん(食欲がない日でも喉を通ります)、瓜(うり)類――きゅうり、冬瓜、すいか。うなぎが手に届きにくい年でも、この知恵があれば十分。むしろ、こちらのほうが暮らしに取り入れやすいかもしれません。
冬瓜(とうがん)
名前に「冬」とつきますが、旬は夏。体の熱を冷まし、余分な水分を出す働きがあるとされます。だしで煮て、生姜を少し効かせた冬瓜のスープは、火照った体にすっと染み渡ります。
オクラ・モロヘイヤ
ねばりのある夏野菜は、消化を助け、粘膜を守ってくれるとされます。食欲が落ちた日でも、刻んで冷奴やそうめんに添えるだけで、するりと食べられます。
甘酒
実は甘酒は、俳句の世界では夏の季語です。江戸時代には、暑気払いの飲み物として夏に売り歩かれていました。「飲む点滴」とも呼ばれるほど栄養があり、食欲がない朝でも、冷やした甘酒を少しだけなら口にできる ― そんな日の助けになってくれます。
大暑の行事と季節を表す言葉
土用干し
梅雨のあいだに漬けた梅を、三日三晩、天日に干す ― これが「土用干し」です。晴天が続く大暑の頃が、絶好のタイミング。ざるに並べた梅が日を浴びて、少しずつ色を深めていく様子を眺める時間は、夏の手仕事のなかでもとりわけ豊かなひとときです。衣類や書物を虫干しする「土用の虫干し」も、同じ時期の習わしです。
打ち水
夕方、玄関先や庭に水をまく。気化熱で地面の温度が下がり、風がわずかに涼しくなる ― 江戸時代から続く、日本の暮らしの知恵です。ベランダや玄関先に少しまくだけでも、その場の空気が変わります。エアコンに頼らざるを得ない日々のなかで、こういう「自分の手で涼をつくる」行為には、体感以上の心地よさがあります。
季節を表す言葉
「炎暑(えんしょ)」――燃えるような暑さ。「油照り(あぶらでり)」――薄曇りで風がなく、じりじりと汗がにじむような日を指す言葉です。うだるような日本の夏を、これほど的確に言い表した言葉もありません。「夕立(ゆうだち)」――夏の午後に降る、激しくて短い雨。降ったあとの、あの涼しさと土の匂いは、夏の贈りもののひとつです。
大暑に取り入れたい、暮らしの整え習慣
① 冷房と、上手に付き合う
猛暑の今、冷房は我慢するものではなく、きちんと使うものです。そのうえで整えたいのが、外との温度差。強く冷えた室内と炎天下を行き来すると、自律神経が揺さぶられて、あの独特のぐったり感につながります。
薄手の羽織りものを一枚、鞄に入れておく。足元が冷える席では靴下やレッグウォーマーを。そして直接風が当たり続けないよう、風向きを少し変える ― それだけで、夕方の疲れ方が変わってきます。
② 胃腸(脾)を、いちばんに守る
土用と重なる大暑は、胃腸をいたわる時期です。冷たい飲みものは、キンキンではなく常温か、少し冷えた程度に。一日一杯でいいので、温かい汁物を摂る。そうめんの日には薬味(みょうが・生姜・大葉)をたっぷり添えて、消化を助ける ― どれも小さな工夫ですが、夏の後半の体力が変わってきます。
③ 五感で、涼をとる
打ち水、風鈴の音、簾(すだれ)越しの光、うちわの風。日本の夏には、体温を下げるだけでなく「涼しいと感じさせる」知恵がたくさんあります。窓辺に風鈴をひとつ吊るす、冷たいおしぼりを首の後ろに当てる、ハッカ油を一滴垂らした水でうがいをする ― 気温は変わらなくても、体感と気分は確かに変わります。
④ 「頑張らない」を、この時期の基本にする
大暑は、一年でいちばん体力を消耗する節気です。この時期に無理をすると、その反動は秋口にやってきます。予定を詰め込みすぎない。日中の暑い時間帯は外出を避ける。昼寝を15〜20分だけ許す ― 今できることを減らしておくのが、秋を元気に迎えるための準備です。
夏の後半にバテてしまう方の多くは、この大暑の時期に頑張りすぎています。「暑いから、今日はここまで」と自分に言ってあげられること。それが40代の夏の、いちばん大切な整え方かもしれません。
夏をひと巡りして、見えてくること
立夏から大暑まで、6つの節気を辿ってきました。並べてみると、夏という季節の流れが見えてきます。
立夏で爽やかに始まり、小満で命が満ちて、芒種の雨で根を張り、夏至で光が極まり、小暑で暑さが本格化し、大暑で頂点に達する ― そしてその頂点が、そのまま秋への入り口になっている。
薬膳の視点で見ると、夏を通していたわりたいのは「心(しん)」。暑さは血の巡りと精神の安定に負担をかけます。そこに梅雨の「湿」(芒種〜夏至)と、土用の「脾」(大暑)が重なる ― だから夏の整え方は、この3つに集約できます。
- 冷やしすぎない ― 冷たいものと冷房から、胃腸と体の芯を守る
- こもらせない ― 湿気と熱を、体にも住まいにも溜め込まない
- 休ませる ― 明るさと暑さに引っ張られず、意識して静の時間をつくる
どれも特別なことではありません。常温の水を選ぶ、薬味をひとつ添える、湯船に浸かる、夜は少し早く照明を落とす。その小さな積み重ねが、季節に沿った暮らしをつくっていきます。
大暑のあとは、立秋へ
8月7日頃、暦は立秋を迎えます。まだ暑さの真っただ中ですが、この日を境に「暑中見舞い」は「残暑見舞い」へと変わります。
暑さの底で、秋がもう動き始めている ― 二十四節気は、そんな季節の先ぶれを、いつも少しだけ早く教えてくれます。だからこの暦とともに暮らしていると、「今」を味わいながら「次」に備えられる。それが、慌ただしい日々のなかで、私が二十四節気に惹かれ続けている理由です。
厳しい暑さのなかにも、涼風があり、夕立があり、夜に鳴く虫の声が少しずつ増えていきます。その小さな変化に気づけたら、この夏はきっと、少しだけ豊かなものになるはずです。
どうか、無理をせず。あなたの夏が、心地よく満たされていきますように。
