「まさか自分には起きないだろう」
「なんとかなるはず」
「そのうち準備しようと思っているけど、まだ大丈夫」
心のどこかで、そんなふうに思ったことはありませんか。
実はこの「自分は大丈夫」という感覚、意志の強さでも楽天的な性格でもなく、人間の脳に備わった「ある働き」から来ています。
それが、「楽観バイアス」です。
この法則を知るだけで、「備えられていない自分」への見方が少し変わります。そして、やさしく、無理なく備えることが、少し近くなります。
楽観バイアスとは?
楽観バイアスとは、
「自分は他の人より悪い出来事に遭遇しにくく、よい出来事に恵まれやすい」と無意識に信じてしまう心理的な傾向
のことです。
行動経済学や認知心理学の分野でよく知られるこの概念は、1980年代の研究者ニール・ワインスタインらの研究で広く知られるようになりました。
たとえば、
「交通事故に遭うのは、自分より他の人のほうが多いはず」 「病気になるリスクは、平均より自分のほうが低いだろう」 「災害が起きても、自分の家は大丈夫だろう」
こういった感覚は、多くの人が自然に持っています。でもそれは、客観的なデータに基づいた判断ではなく、脳が「自分を守ろう」とするときに生まれる認知のゆがみです。
自分が弱気になりすぎないように、日々を前向きに生きられるように——楽観バイアスには、そういったポジティブな側面もあります。でも同時に、「備えを先送りにする」原因にもなりやすいのです。
40代の暮らしで、楽観バイアスが働きやすい場面
このバイアスは、特別な場面だけでなく、日常のあちこちで静かに働いています。
暮らしの中での例
- 「防災グッズ、そのうち揃えよう」と思いながら、何年も後回しにしている
- 「健康診断、今年はまあいいか」と毎年先延ばしにしている
- 「保険の見直しが必要とわかっているけど、まだ元気だから大丈夫」と思っている
心の中での例
- 「このまま続けていても、なんとかなるはず」とぼんやり思っている
- 「疲れているけど、自分は大丈夫。倒れるほどじゃない」と思い込んでいる
- 「お金の管理、いつか整えよう」と先送りにしている
これらはすべて、「自分は平均より恵まれている」という無意識の確信から来ています。
40代になると、体の変化・仕事の変化・家族の変化が重なり始める時期でもあります。「まあ大丈夫」という感覚が、実は現実とずれてきているサインに気づきにくくなることが、このバイアスをより強くする場合があります。
「大丈夫」が危うくなるとき
楽観バイアスは、普段の生活ではむしろ助けになってくれることがあります。過度に不安を感じず、行動し続けられるのは、このバイアスのおかげでもあります。
でも、「大丈夫」が危うくなる場面があります。それは、準備が必要なことを、先送りにし続けているときです。
災害は、準備していない人のところにも来ます。病気は、「自分は大丈夫」と思っている人にも起きます。体の疲れは、「まだいける」と思い込んでいる間にも蓄積されています。
「自分だけは大丈夫」という感覚は、現実を正確に見ているわけではありません。それは、脳が作り出した「心地よいフィルター」です。
このフィルターの存在を知ることが、やさしく備えるための第一歩になります。
楽観バイアスとうまく付き合う考え方
楽観バイアスをなくそうとする必要はありません。それは脳の自然な働きであり、完全に排除することはできませんし、する必要もありません。
大切なのは、「大丈夫かもしれないけど、備えておく」という視点を持つことです。
前回ご紹介した現状維持バイアスと少し似ていますが、楽観バイアスの場合は「変わらなくていい」ではなく「自分には起きない」という思い込みが、行動を止めています。
その思い込みにそっと気づいて、「もしかしたら、自分にも起きるかもしれない」と、少しだけ現実に近い視点を持ってみる。それだけで、備えへの一歩が自然と生まれてきます。
「備えること=不安になること」ではありません。 備えることは、「何があっても対応できる自分でいる」という、静かな自信を育てることです。
やさしい備えの始め方
「備えなきゃいけないとわかっているのに、なかなか動けない」——それも、楽観バイアスの影響かもしれません。
だからこそ、ハードルをとことん下げることが大切です。
◎ まず「今の状態」を確認するだけでいい 防災グッズはどこにある?非常食の賞味期限は切れていない?健康診断の結果を最後に見たのはいつ?——確認するだけでも、現実が見えてきます。
◎ 「全部揃えよう」ではなく「ひとつだけ足す」 一度にすべてを整えようとすると、重くなって動けなくなります。今日は水を1本多めに買う、今日は避難場所を地図で確認する——そのくらいの小さな一歩が、確実に積み重なっていきます。
◎ 「プロが選んだもの」に頼る 何を揃えればいいかわからないとき、専門家が監修した防災セットを活用するのも賢い選択です。考えるエネルギーを使わずに、必要なものを一度に揃えられるのは、忙しい40代の暮らしにとってとてもありがたいことです。
気になる方はこちらも参考にしてみてください。
備えることは、自分への愛情表現
「備えている人=心配性な人」ではありません。
備えている人は、「自分と大切な人の暮らしを守ることを、ちゃんと考えている人」です。
楽観バイアスを手放すのではなく、「大丈夫かもしれないけど、備えておく」という視点をそっと加える。それが、40代からの賢くやさしい暮らし方だと思っています。
「大丈夫」より「準備している」という安心感へ
楽観バイアスは、今日もきっとあなたの心の中で静かに働いています。
「まあ大丈夫」という感覚があることは、悪いことではありません。でも、その感覚に気づいたとき、少しだけ立ち止まってみてください。
「本当に大丈夫?それとも、備えておいたほうが安心?」
その問いを持つことが、楽観バイアスとやさしく付き合う第一歩です。
「大丈夫」という根拠のない安心より、「準備している」という実感に基づく安心のほうが、日々の暮らしをずっと穏やかにしてくれます。
今日、ひとつだけ「もしもへの備え」を確認してみてください。その小さな行動が、あなたの暮らしをじんわりと、確かに整えていきます。
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