季節が変わるたびに、体は正直に反応します。
春はなんだかだるく、気分が晴れない。梅雨は体が重く、むくみやすい。夏は食欲が落ちて、暑さに体がついていかない。秋は肌やのどが乾き、なんとなく物寂しい。そして冬は、手足が冷えて疲れが抜けない ― 30代まではあまり意識しなかった変化が、40代になると無視できなくなってきます。
そんな私を支えてくれたのが、「キッチンでのセルフケア」でした。薬膳の考え方を参考にしながら、その季節の旬の野菜を食卓に一品加えるだけ。それだけで、体の巡り方や疲れの抜け方が少しずつ変わっていく。野菜を切り、鍋に入れ、火にかける ― その一連の作業そのものが、忙しい日常の中で自分をいたわる”私時間”になっていきました。
この記事は、春夏秋冬それぞれの季節の整え方を、一冊にまとめたものです。季節ごとに、体に何が起きているのか。どの野菜が寄り添ってくれるのか。そして今日、台所で何を作ればいいのか。最後には、冷え・疲れ・肌荒れの日に開ける「体調別・整え食材リスト」も添えました。
今の季節の章から読んでいただいても、春から順に辿っていただいても大丈夫。一年を通して、台所のお供にしていただけたらうれしいです。
- 四季のキッチンセルフケア 早見表
- 薬膳の「季節と体」― 一年をめぐる、5つの臓
- 春|「肝」を整える ― 気を巡らせ、冬の滞りを出す
- 春の不調チェック
- 春野菜の「苦味」が、体を目覚めさせる
- 「気が滞る」という状態
- 初夏|「気」を補う ― 動き続けた春から、夏への充電
- 「気が足りない」という状態
- 梅雨|「湿」と「熱」を、同時に整える
- トマトで「冷ます」、さやいんげんで「補って出す」
- 夏|こもった「熱」を冷ます
- 秋|「肺」をうるおす ― 乾燥から、体を守る
- 秋の不調チェック
- 「白い食材」で、うるおいを補う
- 「実り」で、エネルギーを補う
- 冬|「腎」を養い、芯から温める
- 根菜 ― 芯から温め、巡りの土台をつくる
- 葉物野菜 ― 温めすぎた体を、やさしく整える
- 香味野菜・薬味 ― 温めた熱を、全身に巡らせる
- 豆・きのこ・海藻 ― 腸と血を、静かに支える
- スープと鍋 ― 迷った日の、いちばん簡単な答え
- 体調別・整え食材リスト ― 冷え・疲れ・肌荒れの日に開くページ
- まとめ ― 40代の台所は、体を整える場所になる
四季のキッチンセルフケア 早見表
| 季節 | 薬膳で対応する臓 | 整えたいこと | 代表的な野菜 |
|---|---|---|---|
| 春 | 肝(かん) | 気を巡らせ、冬の滞りを出す | 菜の花・たけのこ・春キャベツ |
| 初夏 | 心(しん)へ移行 | 気を補い、活力を戻す | アスパラガス・そら豆 |
| 梅雨 | 脾(ひ)=胃腸 | 湿と熱を、同時に整える | トマト・さやいんげん |
| 夏 | 心(しん) | こもった熱を冷ます | ゴーヤ・きゅうり・なす |
| 秋 | 肺(はい) | 乾燥から、うるおいを守る | れんこん・きのこ・さつまいも |
| 冬 | 腎(じん) | 芯から温め、蓄える | 大根・人参・ごぼう・白菜 |
薬膳の「季節と体」― 一年をめぐる、5つの臓
薬膳の考え方では、季節と体の臓には深いつながりがあるとされています。西洋医学の臓器とは少し異なる、もう少し広い概念です。
春は「肝」。全身の気(エネルギー)の流れをコントロールし、血を蓄え、感情の調整にも関わるとされます。夏は「心」。血を巡らせ、精神の安定を司ります。梅雨と土用は「脾」。消化吸収を担う、胃腸の働きです。秋は「肺」。呼吸だけでなく、皮膚やのどのうるおいとも関わります。そして冬は「腎」。生命力を蓄え、体を温める土台となる臓です。
季節が移るたびに、負担がかかる場所も変わっていく。だから「いつも同じものを食べる」のではなく、その季節に必要なものを選ぶ ― それが薬膳の基本的な考え方です。
そして、いちばん大切なことをお伝えしておきます。薬膳は「完璧な食事」を目指すものではありません。 毎日の献立に、その季節の野菜をひとつプラスするだけ。私が続けているのはそれだけですが、それでも十分に体は応えてくれます。
春|「肝」を整える ― 気を巡らせ、冬の滞りを出す
春になると、あたたかさとともに体が軽くなるはずなのに、「なんだかだるい」「気分がすっきりしない」「疲れが抜けきらない」。私自身、40代に入ってから、春になるたびにこの感覚が強くなりました。
冬の間は「寒いから疲れる」と思っていたのに、あたたかくなってもすっきりしない。むしろ、季節の変わり目のほうが調子が乱れやすい ― そのことに気づいたとき、薬膳の考え方がひとつの大きなヒントをくれました。
春は、冬の間に体内に溜め込んでいたものを、外へ向けて動かし始める季節。自然界が芽吹くように、体も「動き出そうとするエネルギー」に満ちてきます。でも、その動きに体がうまく対応できないと、気の巡りが滞り、不調としてあらわれやすくなるのです。
春の不調チェック
- 体のだるさ・重さ(気の流れが滞ると、体全体がもたついた感覚に)
- イライラ・気分の浮き沈み(肝は感情の調整とも関わります)
- 目の疲れ・かすみ(薬膳では「肝は目に開く」といわれます)
- 筋肉のこわばり・こり(肝は「筋」とも関わるとされます)
- 眠りの浅さ
40代は、ホルモンバランスの変化も加わるため、こうした不調が重なりやすい時期。「春だから仕方ない」と流してしまうより、「体が整えどきのサインを出している」と受け止めると、対処の仕方が変わってきます。
春野菜の「苦味」が、体を目覚めさせる
薬膳には、「春は苦味、夏は酸味、秋は辛味、冬は甘味」という考え方があります。季節ごとに体が必要とする味が異なる、という伝統的な知恵です。
では、なぜ春に苦味なのでしょうか。冬の間、私たちの体はエネルギーを内側に蓄えながら過ごします。温かいもの、甘いもの、こってりしたものが増える冬の食事は、体の中に「湿」や余分な熱を生みやすい側面があります。春になって体が動き出そうとするとき ― その滞りをほぐして外へ流してくれるのが、苦味の役割とされているのです。
ふきのとう、よもぎ、春菊。苦味を持つ春野菜が多いのは、偶然ではなく、自然の理にかなっているのかもしれません。「体が求めているから、春に苦い野菜が芽吹く」。そう思うと、あの独特の苦みが、少し愛おしくなりませんか。
春の主な野菜と働き
- 菜の花・ふきのとう ― 苦味で解毒と気の巡りを助ける
- たけのこ ― 気・血の流れを促し、滞りをほぐす
- 春キャベツ ― 胃腸をやさしく整え、消化を助ける
- 新玉ねぎ ― 血の巡りを促し、冷えやくすみに
- よもぎ ― 体を温めながら、解毒・巡りをサポート
「気が滞る」という状態
薬膳でよく出てくる「気滞(きたい)」という言葉。40代の春には、特にこの状態が起きやすいといわれます。胸やお腹がつかえるような感じがする、ため息が自然と出る、なんとなくイライラする、やる気がわかない ― 水が流れなくなった川のように、体の中の循環が止まってしまったイメージです。
「更年期のせいかな」「疲れているだけかな」と思いがちですが、気の流れが滞っているサインでもあります。そして気滞は、体を動かすことや食べるもので、少しずつほぐしていくことができます。
春の一品:菜の花のごま和え
菜の花の苦みを、白ごまのコクがやさしく包むシンプルな一品です。菜の花1束を塩ゆで(1〜2分)して冷水にとり、水気を絞って3〜4cmに切る。白すりごま大さじ2・しょうゆ小さじ2・みりん小さじ1で和えるだけ。ゆですぎると苦みと栄養が逃げるので、鮮やかな緑が保てる程度に。苦みが気になる方は、冷水にさらす時間を少し長めにするとマイルドになります。
たけのこなら、かつおだしで炊く土佐煮を。かつおだしには気を補う働きがあるとされ、たけのこの「気を動かす」働きと合わさって、停滞をほぐしながらエネルギーも補ってくれます。生のたけのこは米ぬかでゆでるアク抜きが必要ですが、水煮から始めても十分です。
初夏|「気」を補う ― 動き続けた春から、夏への充電
春から初夏へと空気が変わるこの時期、なんとなく体がだるい、疲れが抜けにくい、気力が続かない ― そんな感覚はありませんか。
「五月病」という言葉があるように、季節の変わり目はエネルギーが落ちやすい時期でもあります。華やかな春の陽気から初夏の暑さへと、体は新しい季節への適応を静かに続けています。
薬膳では、春の「肝」から、初夏には「心」の季節へと移行していきます。春の間、気と血を動かし続けてきた体は、夏に向かって少しずつエネルギーを補充する必要があるのです。
「気が足りない」という状態
「気虚(ききょ)」― 体を動かすエネルギーが不足した状態です。電池の残量が少なくなったイメージ、と言うとわかりやすいかもしれません。
- 朝起きても疲れが残っている
- 少し動いただけで疲れやすい
- やる気が出ない、なんとなく億劫
- 食欲にムラがある
- 風邪を引きやすくなった気がする
「年齢のせいかな」と思いがちですが、気のエネルギーが一時的に不足しているサインでもあります。気虚は、適切な食事と休養で少しずつ回復させることができます。
この時期に頼りになるのが、アスパラガスです。味は苦味と甘味、性質はやや涼性。体の余分な熱をやわらげながら、同時に気を補う働きがあるとされています。アスパラギン酸という成分が豊富で、疲労回復をサポートすることでも知られています。利尿・解毒のサポートもあり、春から初夏にかけて溜まりやすい「湿」を取り除いてくれます。冷やしすぎないため、胃腸が弱い方にも取り入れやすい食材です。
初夏の一品:アスパラガスと卵の炒め物
アスパラガス6〜8本を斜め薄切りにして、ごま油で1〜2分炒める。溶き卵2個分を加えてざっくり混ぜ、半熟になったら醤油小さじ1を回しかけて完成。卵は薬膳で「気と血を同時に補う」とされる優れた食材です。おろし生姜を少し加えると、胃腸を温めて消化を助けてくれます。
梅雨|「湿」と「熱」を、同時に整える
6月に入ると、空気が変わります。じめじめとした湿気、蒸し暑い日と肌寒い日の繰り返し。「疲れているわけじゃないのに、体が重い」「夜、なかなかすっきり眠れない」「なんとなくイライラしやすい」 ― 梅雨の時期に40代の体が感じやすい変化です。
薬膳では、梅雨の不調の原因として「湿(しつ)」と「熱(ねつ)」が重なった「湿熱(しつねつ)」という状態を挙げます。梅雨トラブルの特徴は「重い、濁る、粘る、滞る」。外の湿気が多くなると、体内にも余分な水分や熱が溜まりやすくなるのです。
湿が溜まると ― 体が重だるい、むくみやすい、頭がぼんやりする、胃がもたれる
熱が溜まると ― 夜に体が熱っぽくて眠れない、イライラしやすい、肌にざわつきを感じる
40代はホルモンバランスの変化によって自律神経が揺れやすく、この「湿熱」の影響を特に受けやすい時期でもあります。
トマトで「冷ます」、さやいんげんで「補って出す」
梅雨には、性質の違う2つの食材を組み合わせるのが理想的です。
トマトの味は甘味と酸味、性質は「微寒」― 体をやさしく冷まします。余分な熱を取り除きながら、豊富な水分で潤いを補い、胃腸のはたらきを助けて消化を促してくれるとされます。食欲がない時にもうれしい食材です。リコピンの抗酸化作用は、紫外線が強まる季節の肌を内側からサポートしてくれます。
さやいんげんの味は甘味、性質は「平性」― 温めも冷やしもしない、穏やかな性質です。豆類の仲間として気を補い、脾(胃腸)を養い、余分な水分を外に出す働きがあるとされています。「気を補う」と「湿を出す」を同時に叶えるのが、この食材の頼もしいところ。平性なので、冷えが気になる方にも熱がこもりやすい方にも取り入れやすいのが魅力です。
トマトの「冷ます力」と、さやいんげんの「補い、出す力」。梅雨の体には、この両方をバランスよく取り入れることが理想的です。
梅雨の一品:トマトと豆腐のやさしい冷や奴仕立て
火を使わず5分。絹ごし豆腐を器に盛り、1〜2cm角に切った完熟トマト、せん切りの大葉、薄切りのみょうがをのせ、ごま油・醤油・酢・塩を合わせたドレッシングをかけるだけ。大葉には気の流れを整える働き、みょうがには頭をすっきりさせる香り成分があるとされます。冷蔵庫で冷やしすぎると胃腸に負担がかかるので、常温か少し冷やす程度でいただくのがおすすめです。
夏|こもった「熱」を冷ます
本格的な夏になると、外の暑さによって体にも熱がこもりやすくなります。薬膳では、夏の不調の主な原因として「暑邪(しょじゃ)」― 体にこもる過剰な熱 ― を重視します。
体がほてる、のぼせる。のどが渇く。イライラしやすく落ち着かない。食欲が落ちる。寝苦しくて眠りが浅い ― この熱が適切に発散されないと、さまざまな不調として表れてきます。40代になると体温調節も以前より不安定になりがちで、「暑さに体がついていかない」と感じやすくなります。
そんな夏に頼れるのが、ゴーヤ(苦瓜)です。味は苦味、性質は「寒性」― 体の熱をしっかり冷ます、まさに夏のためにある食材です。
- 体にこもった熱を冷ます ― ほてり、のぼせ、口やのどの渇きをやわらげてくれるとされます
- 夏バテをやわらげる ― ビタミンCが豊富で、その量はトマトの数倍とも。しかも熱に強く壊れにくいため、加熱調理でもしっかり摂れます
- 気持ちの高ぶりを鎮める ― 苦味には、暑さでイライラしやすい心を落ち着かせる働きもあるとされます
ただし、ゴーヤは寒性が強いため、冷えが気になる方や胃腸が弱っている方は食べすぎに注意を。薬膳では、豆腐・豚肉・卵といった「体を潤し、気を補う」食材と組み合わせることで、苦味がやわらぐだけでなく、冷やしすぎも防げるとされています。
きゅうり、なす、すいかといった夏野菜も、体の余分な熱を冷ましてくれる存在です。
夏の一品:ゴーヤと豆腐・豚肉のさっぱり炒め
ゴーヤ1/2本は縦半分にして種とわたを取り、薄切りに。塩少々でもんでさっと下ゆでし、苦味をやわらげます。ごま油で豚こま肉100gを炒め、水切りした木綿豆腐1/2丁を加えて焼き色をつけ、ゴーヤを加えて炒め、溶き卵1個を回し入れて醤油・塩こしょうで味を整えるだけ。豆腐・豚肉・卵はいずれも体を潤す作用があり、暑さで乾いた体にうるおいを与えながら熱を冷ます、夏に理想的な組み合わせです。
秋|「肺」をうるおす ― 乾燥から、体を守る
夏の暑さがようやく落ち着き、朝夕に涼しさを感じるようになる頃。ほっとする一方で、40代の体には新しい課題が始まります。乾燥です。
のどがイガイガする。肌がかさつく。唇が荒れる。空咳が出る。なんとなく気分が沈む ― 秋になると出てくるこうしたサインは、薬膳では「肺(はい)」の季節と深く関わっているとされます。
薬膳における「肺」は、呼吸だけでなく、皮膚やのど、鼻など「体の表面のうるおい」とも関わる臓。そして肺は、五臓の中でもっとも乾燥に弱いとされています。空気が乾いていく秋は、肺がいちばん負担を感じやすい季節なのです。
もうひとつ、秋には見落としやすい落とし穴があります。夏の消耗が、この時期に表面化すること。冷たいものを摂りすぎた胃腸、冷房で冷えた体、暑さで消耗した気力 ― それらが、涼しくなってから「なんとなく元気が出ない」というかたちで出てくる。だから秋の食卓には、うるおすことと補うことの、両方が必要になります。
秋の不調チェック
- のど、鼻、肌の乾燥が気になる
- 空咳が出る、痰が切れにくい
- 夏の疲れが抜けきらない
- 気分が沈みやすく、物寂しさを感じる
- 便が乾きがちで、お通じが不安定
「白い食材」で、うるおいを補う
薬膳には、「秋には白い食材を」という考え方があります。白い色の食材には、肺をうるおし、乾燥から守る働きがあるとされているのです。
- れんこん ― 秋のうるおい食材の代表格。のどや肺をうるおすとされ、生に近い状態ではシャキッと、じっくり煮るとほっくり。すりおろして汁物に入れると、とろみが体をやさしく包みます
- 大根 ― 消化を助け、体の余分な熱をやわらげるとされます。秋の大根は辛味がやわらぎ、甘みが出てきます
- 山芋 ― 「気」を補い、体の土台を養う食材とされ、夏に消耗した体の立て直しに
- 白きくらげ ― うるおいを補う食材として古くから知られ、スープや甘煮に少量加えるだけでも
- 梨 ― のどのうるおいに。生でも、蒸しても、はちみつを添えても
「実り」で、エネルギーを補う
秋は収穫の季節。うるおすだけでなく、冬に備えてエネルギーを蓄える時期でもあります。
- きのこ類(しいたけ・舞茸・しめじ) ― 免疫を整え、不要なものを外へ流す役割とされます。うまみが出るので、少ない調味料でも味が決まるのがうれしいところ
- さつまいも・かぼちゃ ― 胃腸を元気にし、自然な甘みが心もほぐしてくれます。「秋は甘みで気を補う」を実感できる食材です
- 栗 ― 「腎」を養い、体を温めるとされる、秋の滋養食
- 銀杏(ぎんなん) ― 少量で秋の滋味を楽しめます。食べすぎには注意を
秋の一品:れんこんときのこの、とろみ汁
れんこん1/2節をすりおろし(食感を残したい方は半量を薄切りに)、しめじや舞茸をほぐして、だしで煮るだけ。仕上げに醤油を少々、お好みで生姜のしぼり汁を数滴。れんこんのとろみが、のどと胃をやさしく包んでくれます。冷えを感じる日は生姜を多めに、乾燥が気になる日は控えめに ― その日の体で加減してください。
秋は、夏の疲れを癒しながら、冬に向けて体を整えていく大切な準備期間。「うるおす」と「補う」を意識するだけで、冬の入り口での体の状態が変わってきます。
冬|「腎」を養い、芯から温める
冬になると、40代の体はいっそう正直です。
夕方になると手足が冷える。肩や腰が重く、疲れがどっと出る。しっかり食べているはずなのに、体の芯が冷えたまま。夜になっても体がほぐれず、眠りにくい ― 寒さが本格化するこの季節、こうした変化が無視できなくなってきます。
薬膳では、冬は「腎」を養い、体を温めることが大切な季節とされています。冷えは血流や代謝を滞らせ、疲労や肌の乾燥にもつながるため、食材を通して内側から整えることが理にかなっているのです。
冬の柱はシンプルです。根菜で温め、葉物で整え、香味野菜で巡らせ、豆・きのこ・海藻で支える。迷ったらスープと鍋。
根菜 ― 芯から温め、巡りの土台をつくる
土の中でじっくり栄養を蓄えて育つ根菜は、体を芯から温め、血流や代謝をやさしく支えてくれる存在とされています。噛みごたえがあるため自然と咀嚼が増え、消化を助けてくれる点も、疲れやすい40代にはうれしいところです。
消化を助け、滞りをやさしく流してくれる大根。血を補い巡りを整えるとされる人参。血流を助け、シャキッとした食感が心まで軽くするれんこん。巡りを促し余分なものを外へ出すとされるごぼう。
調理は「がんばりすぎない」が鉄則。薄切りにして火を通しやすくする、出汁でさっと煮る、ごま油で軽く炒める ― それだけで十分です。
葉物野菜 ― 温めすぎた体を、やさしく整える
温める食材ばかりを続けていると、40代の体はときどきこう言います。「もう少し、軽さが欲しい」と。
冬は温める=陽に偏りがちで、陽に傾きすぎるとほてり・重だるさ・抜けない疲れを感じやすくなるとされます。そこで葉物野菜の出番。寒さの中で育つ冬の葉物は栄養価が高く、強く冷やしすぎず、体の内側を潤し落ち着かせてくれる“やさしい陰”の役割を果たします。
クセがなく扱いやすい小松菜、血を補い乾燥しがちな体を潤すとされるほうれん草、香りが気の巡りを助けるとされる春菊。コツは、必ず温かい料理に使うこと。根菜+葉物は、温めながら整える冬の理想的なバランスです。
香味野菜・薬味 ― 温めた熱を、全身に巡らせる
「温かいものを食べているのに、手足の冷えが残る」。この違和感の答えが、香味野菜にありました。
薬膳では、冷えを単に体温が低い状態ではなく「巡りが滞っている状態」として捉えます。根菜が体の芯を温めて土台を作る存在だとしたら、香味野菜はその熱を全身に行き渡らせる役割。香りと辛味には気血の巡りを促す働きがあるとされています。
生姜はすりおろすより千切りや薄切りにすると刺激がやさしい。長ネギは火を通すと甘みが出て日常使いしやすい。にらは疲れた日の底力に、にんにくは香りづけ程度がちょうどいい。どれも主役にしなくていい、「添える」くらいが続けやすいポイントです。
豆・きのこ・海藻 ― 腸と血を、静かに支える
薬膳で冬は「ためる」「養う」季節。40代になると”受け取る・運ぶ”力がゆるやかになるため、無理に動かすより、静かに補い整える食事がしっくりきます。
豆類(豆腐・厚揚げ・大豆製品)は血を補い腸を支える代表格。きのこ類は免疫を整え、こもりがちな冬の体に軽さをもたらします。海藻類(わかめ・昆布・ひじき)はミネラルが豊富で、乾燥しやすい冬の体に潤いを。
乾燥椎茸・乾燥わかめ・刻み昆布を常備ストックにしておくと、「いつでも使える」状態が続きます。
スープと鍋 ― 迷った日の、いちばん簡単な答え
ここまでの食材を、いちばん簡単にまとめてくれるのが、薬膳的なスープと鍋です。
根菜が体を下から支えて芯を温め、葉物が巡りを助けてこもった熱を整え、香味野菜が温めるスイッチを入れる。私のスープは本当にシンプルです。根菜を数種類、葉物をひとつ、生姜をほんの少し、だしは昆布や干し椎茸。コトコト煮るだけで、体の緊張がほどけていきます。
そして鍋は、手間がかかるどころか、私にとっていちばん簡単な料理。切って入れる、火にかける、整ったら終わり。味付けは塩・味噌・だしだけで十分です。「今日は冷えたな」と感じた日は迷わず鍋。それだけで夜の過ごし方と眠りの質が変わってきます。
続けるうちに、体だけでなく心にも変化がありました。イライラしにくくなった。夜、気持ちが落ち着く。疲れを翌日に持ち越しにくい。温まることは、安心することでもある ― 40代になって、その感覚がしっくりきます。
体調別・整え食材リスト ― 冷え・疲れ・肌荒れの日に開くページ
季節をひと巡りして最後にたどり着いたのは、「何を食べるか」より「今の体が、何を必要としているか」という視点でした。
同じ季節でも、冷えがつらい日、どっと疲れが出る日、肌が不安定な日 ― 体調は毎日違います。だからレシピを決め込むより、体調別に”選べる食材”をキッチンに置いておく。その一覧が、このページです。
冷えを感じる日 ― 体の「下」と「芯」を意識して
大根・人参・ごぼう・れんこんの根菜を、蒸す・煮る・スープで。生姜・ねぎを加熱して香りづけすれば、温めのスイッチが入ります。
疲れが抜けない日 ― エネルギー(気)不足のサインに
かぼちゃ・さつまいも・きのこ類・豆類(大豆・ひよこ豆・さやいんげん)。春夏ならアスパラガスも。特にきのこは巡りを助け、疲れを溜め込みにくくしてくれるとされます。炒めすぎず、煮る・蒸すでやさしく。
肌荒れ・乾燥が気になる日 ― 「内側の乾き」を疑って
白菜・小松菜・ほうれん草の葉物と、わかめ・ひじきの海藻。秋冬なられんこん・山芋・白きくらげなどの白い食材を。水分代謝とうるおいを整える食材を、油控えめのスープやおひたしで。
むくみ・重だるさが続く日 ― 「湿」が溜まっているサイン
さやいんげん・とうもろこし・きゅうり・冬瓜など。豆類や瓜類には、余分な水分を外へ促す働きがあるとされます。
気分が晴れない日 ― 気の巡りが滞っているのかも
春菊・大葉・みょうが・柑橘類など、香りのある食材を。菜の花やたけのこの苦味も、滞りをほぐす助けになるとされます。
そして、わが家の常備「整え食材リスト」はこの5グループです。根菜(大根・人参・ごぼう・れんこん)、葉物(白菜・小松菜・青菜類)、香味野菜(生姜・ねぎ・大葉)、きのこ(しいたけ・えのき・しめじ)、豆・海藻(大豆・ひじき・わかめ)。特別なものはひとつもありません。基準は「続けられること」だけです。
習慣化のコツも3つだけ。切り置きはしない。下処理は週に一度だけ。迷ったらスープにする。 完璧を目指さないことが、いちばんの近道です。
まとめ ― 40代の台所は、体を整える場所になる
一年をひと巡りして、伝えたかったことはひとつです。
40代からのキッチンセルフケアは、治すためではなく、乱れにくくするための習慣。
春は苦味で気を巡らせ、初夏は気を補い、梅雨は湿と熱を整え、夏は熱を冷まし、秋はうるおいを守り、冬は芯から温めて蓄える。季節が変われば、体が必要とするものも変わる ― その当たり前のことに寄り添うだけで、一年の巡り方が変わってきます。
そして、全部を覚える必要はありません。その季節の野菜を、食卓にひとつ加えるだけ。 迷ったらスープにする。それだけで十分です。
野菜を洗い、切り、火にかける短い時間の中に、「今の体に何が必要か」を自然と考えるひとときがあります。それこそが、台所でできるいちばんのセルフケア。
旬のものを食べる。それだけで、今日の自分をちゃんといたわれている ― そんな小さな積み重ねが、これからの暮らしをしなやかに、そして心地よく整えてくれるはずです。
今日の体に、ちょうどいい一品を。あなたの台所が、心地よい場所でありますように。
※本記事は私自身の体験と一般的な薬膳の考え方のご紹介です。体調不良が続く場合は医療機関にご相談ください。
※あわせて読みたい:薬膳の基本(陰陽・五性五味・体質チェック)は40代から始める”おうち薬膳”入門 完全版へ。季節の暮らし方は夏の二十四節気、暮らしの手帖・秋の二十四節気、暮らしの手帖もどうぞ。
